WASHハウスの野望は、洗濯無料のコインランドリー
コインランドリー業界で唯一の上場企業、WASHハウスの児玉社長の講演記事。
気が付けば、もう全国に462店舗も出店しているんですねー(2017年11月現在)
今回はこのネタで色々と頭の体操をしてみようと思う。詳しい講演内容は、日経トレンディの記事を読んで頂くとして、気になったのはこちらのコメント。
さらに「コインランドリーは日本最大の店舗数を持てるビジネスだと思っています。それはコンビニよりも小さいスペースで経営できるから。さらに洗濯だけでなく、情報発信の基地になるような空間も目指しています。いずれは洗濯を無料化して、洗濯している間に近くのベーカリーやスーパーで使えるクーポンを発券して買い物を楽しんでもらう。情報を交換できるような場所づくりができればコインランドリーの立ち位置も変わっていくのではないかと思っています」
この児玉社長は、以前からコインランドリー自体は無料にして、広告で収益をあげたいと、語っていたがまた同じ話をしている。日本最大の店舗数を持てるビジネスっていうけど、美容院の店舗数知ってるんですか?23万軒ですよ、信号機よりも多いんですよぉ!(まぁ僕のこないだ知ったんだけど、詳しくはこちらの投稿)
既存のコインランドリー店からしたら、「こんな無料の店が近くにできたら、めっちゃ脅威じゃん!」と青ざめるかもしれないが、個人的には本当にそんな事できるんかいな?と思ってしまう。
広告主は誰か?
コインランドリー1店舗当たりの商圏は、都市型か郊外型かによって違うけど、半径1km程度。この商圏で来店した人に広告やクーポンを発行して地域の店への誘導するといっても、それは新聞折り込みチラシや地域フリーペーパーより狭い範囲になる。しかも、洗濯の待ち時間のついでに立ち寄れる店となると更に対象が限られる(居酒屋などはこの時点でNG)
この講演で広告主として期待している近所のスーパーの立場からすると、寄生してるのはむしろコインランドリーじゃないの?というところだろう。なぜならコインランドリーの来客率は5%程度で明らかにスーパーよりも劣るから。むしろ逆にスーパーのクーポン発行させてやるから、コインランドリーへの客寄せ費用をよこせ、と言われてもおかしくない。店舗が隣接してるなら尚更。
それでは、地域限定ではなくシャンプーや洗剤などの一般消費財メーカーはどうか。現実、彼らの広告予算はTVや雑誌などのマス広告から、個人を狙い撃ちしたWebターゲティング広告に流れている。いまさらP&Gや花王のマーケターがこのコインランドリー来客チャネルに期待し、そこに投資するだろうか。
物事の本質を忘れてはいけない。広告主は、自社製品のターゲット顧客を多数抱えていて自分がリーチできないチャネルに対して、そこからの集客を期待してお金を払うのだ。ご近所の限られたユーザにしかアプローチできないコインランドリーが「広告してやるから、金だせや!」と言ったところで「お前、何様やねん!」となる気がするのだが。
しかもこのコインランドリーが抱えているのは「無料だから来る客層」。スーパーにしたら特売品しか買わない、最も利益に繋がらない客層なのに…
そもそも広告を見るのか?
コインランドリーを経営してみて判るのだが、多くのお客さんは店内に滞在しない。洗濯を始めたら帰宅したり、別の用足しの為に出かけてしまう。今は、IT化したランドリーシステムのお陰で、スマホから洗濯が終わる時間も正確に確認できるし。また、店内に滞在する人も、スマホばっかりみていて店内の掲示物なんて見ちゃいない。
開店当初には待ち時間は暇だから雑誌とかを置いた方がいいのかなぁ、とも思ったが、現代においてスマホに勝る暇つぶしはなさそうで、結局雑誌は置いていない。これならば廃れたと言われている電車の中吊り広告やドアの上のデジタルサイネージの方がまだ、効果があると思う。
招かねざる客が来て、優良客が離れる?
無料にするとすべてのお客さんが喜ぶとは限らない。特に洗濯モノは肌に触れるものなので、お金を払ってでも自分に価値観の近い人が使っていて、清潔で安心、安全なコインランドリーで洗濯したいという需要がある。最近のコインランドリーブームは、このニーズに後押しされている、と言っても過言ではない。言い換えれば、清潔で安心、安全な洗濯環境を提供してくれるなら、追加でお金を払ってもいい、という顧客層だ。
一方で無料だったら来店する方は、金銭的に本当に困っている人、お金を掛けてまで洗おうとは思わない何かを洗いたい人、そもそも清潔で安心など気にしない人などが頭に浮かんでしまうのは僕だけだろうか。
そうなれば、ゲットしたクーポンを持って別の店に行き、広告主の期待通りの購買行動をするターゲット客層がどんどん離れて行ってしまう。加えて、常に混雑している店には人は寄り付かなくなるだろう。記事にある「コンビニより小さい店」には、当然設置する機械の数も少ないだろう。その数少ない機械を「無料だから来る客」に占有されたら、やはり優良顧客離れというネガティブスパイラルに入ってしまう予感がする。
そもそも経営的に成り立つのか?
コインランドリーは初期投資でざっくり2000万円、売上の30%は光熱費などの変動費、その他にテナントの家賃が掛かる。(WASHハウスの経営分析はこちらのブログが詳しい)
初期費用の償却と運営費などの決して安くないコストが、近所のスーパーなどからの広告収入のみでカバーできるとは到底思えない。
本来、フリーミアムとはサービスを大多数の人に無料で開放して、その中から高機能版にお金を払ってもいいという有料会員を獲得していく、というモデル。無料ユーザにも、広告を表示して、ちゃっかりそこから収入を得ている。
前提としてまず質の高いサービスを開発して、収入源になる圧倒的な数の無料ユーザという母数を手に入れないといけない。Evernoteなどの無限にコピーできるITツールとは違い、コインランドリーは、洗濯機の汚れ、ゴミ箱の処理、機械のトラブルがある物理的な装置産業である。半径1kmの商圏で勝負する、地域に根づくコンビニより小さいコインランドリーの商圏で、圧倒的な無料ユーザーを獲得して、フリーミアムモデルが構築できるのだろうか…。
頭の体操ついでの考察は後半に続く
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