次の土曜日、ハウスメーカーの営業マンが再び笑顔で自宅にやってきた。
是非、「掘り出しモノの土地」の情報を見て欲しい、という。
営業の基本的なテクニックとして、
あなたにだけ特別に!とプレミア感を煽りつつ、
今だけ!と交渉期限を設けた上で、
直ぐに決めないと他の人からも申し込みがありますよ!、と意思決定を焦らせて、冷静な判断を鈍らせて契約する、という定石がある。
今回もどうせそんなストーリーで来るだろう、と心の準備をして営業マンを向えた。
妻も自宅にいたので、一緒にその「掘り出しモノ」とやらの話を聞いてみることにした。何事も社会勉強だからさぁ、ってノリで。
営業マン:こちらの土地なんですけどねぇ、ご存知ですか?
そう言って差し出した地図には、土地勘のある自分達の生活圏が描かれていた。
その一箇所に赤い丸がしてある。
この場所は…なんと本当に「掘り出しモノ」の土地だった。
ご存知ですか?どころか、地元だから良くわかる。
これは30〜40年に一度しか世にでない一等地。
そんな土地が「ねぇ買いません?」と、目の前に突然現れたのだ。
隣にいた妻も、ことの重大さに気がついたらしい。
妻:これって…あの…良い場所だよね?
自分:え、え〜と、ここっていつから売りに出てるんですか?
営業マン:まだ未公開ですが、間もなく公開されると聞いてます。
…ここは、情報が一般公開されたら間違いなく一瞬で業者が買い付ける。今ならまだ間に合うという事か。
自分:あの〜この土地は「建築条件付き」での紹介になりますか?つまり、住宅部分は比較検討してじっくり選びたいので。もし万が一ですが、検討の結果、御社以外のハウスメーカーになっても大丈夫なのでしょうか?
営業マン:建築条件付きではないので大丈夫です。ただ弊社としては、紹介した以上、選んで頂きたいですけどね(笑)
自分:そうですよね、はは、はははー。
営業マンは、先日のヒアリングの結果から作成してくれた概要プランを持ってきていた。ただ、正直そのプランの説明は上の空で、この土地の事で頭がいっぱいだった。
…心臓がドキドキする。
幸運の女神には、前髪しかないという話を聞いた事がある。
目の前を過ぎ去った後には、もう髪がなくて捕まえられないのだ。
これは、自分に巡ってきた大きなチャンスなのではないか?
営業マンは、「あなただけに、今だけ、ライバルより先に決めてください」などとは言わず、あっさりと、購入を勧める訳でもなく、笑顔で帰っていった。
そうなのだ。気がつけば、冷静な判断を鈍らせる「営業マンの定石」には、僕が自ら突入していた。一般公開まで残された時間は短い。どうする、自分!(続き)
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