自宅兼コインランドリーの機械や内装などの設備投資費用は、1200万円。その融資を日本政策金融公庫に依頼しました(前編)自分達なりにしっかり準備して臨んだつもりだったけど、融資担当者との面談では、融資に向けてどうもネガティブな反応が…(中編)
数日後ついに、融資結果を知らせる電話が鳴ったのでした。
日本政策金融公庫からの回答
一度深呼吸をして心を落ち着かせてから、電話にでる。先日の面談のお礼と、一通りの挨拶をすませて、いよいよ本題が始まった。
担当者:えー、お申込み頂いた融資の件ですが。
僕:はい、いかがでしたでしょうか?
担当者:やはりご希望には添えずに、ご融資できるのは750万円までとなります。
無念…、なんと1200万円の希望額に対して、750万円のみ。割合にすれば6割弱しか融資してくれないという、かなり不本意な結果となってしまった。
何とか増額してもらえないか、と食い下がったがもうあとの祭り…。これが日本政策金融公庫ができる最大の融資だという回答だった。
担当者:希望額以下ですが、この金額でもご融資を希望されますか?
僕:…はい、融資頂ける750万円については、手続きをよろしくお願い致します。
電話を切ったあとしばらくは茫然としてその場に立ち尽くしてしまった。そのあと襲ってきたのは「足りない450万円については、何とか別の方法で金策をしなければいけない」という現実だった。開業にむけて順調に準備を進めていた矢先、資金繰りで壁にぶちあったしまった。
どうして日本政策金融公庫の融資申請に失敗してしまったのか?僕たちの何がいけなかったのだろうかと、いろいろと自問自答してみた。
融資が通らなかった要因
冷静に客観的に振り返ってみて、融資が通らなかった要因を考えてみたい
- 店舗併用住宅の住宅ローンの存在
- 事業計画が控えめだった
- フランチャイズの後ろ盾がない独立系店舗
- 税理士やコンサル会社の支援を受けていない
- 養育しなければいけないの子供達がいる
店舗併用住宅の住宅ローンの存在
満額融資とならなかった要因のひとつは、自宅の住宅ローンの存在だと思われる。法人によるコインランドリー開業と並行して、というか開業の前提として3階建ての店舗併用住宅を建てている。この住宅ローンによって、本業がサラリーマンである僕の「融資枠」の大部分を既に使ってしまっている状態になるのだ。金融機関から見れば、僕は既に「負債」のある人。
近年、サラリーマンによる不動産投資がブームだが、その大原則としてよく語られるのは「収益物件の購入を先にして、自宅購入は後にしろ!(っていうかずっと賃貸に住み続けろ)」というもの。
先に収益物件を手に入れた場合、サラリーマン収入+賃貸収入が合算されることで「融資枠(与信枠)」が更に大きくなって、融資を引き出しやすい好循環が生まれる。もしどうしても自宅を購入したかったら、いくつかの収益物件を手に入れてから検討しても遅くない。
一方で、先に自宅を購入してしまうと「融資枠」が少なくなり、新たな借り入れが難しくなる。借りられたとしても多額の融資は難しく、しょぼい収益物件を妥協して購入することになり、期待する賃貸収入が得られない(下手するとマイナス)という悪循環に陥る。だから不動産投資で成功したかったら、自宅は買うな!というロジック。
いや、でもね。そんなことは十分に理解した上で、住宅ローンを活用して店舗併用住宅を建てて、収益を生むマイホームを同時に実現したい、と都合よく考えている訳なのですよ(参考:自宅兼コインランドリーが最強だと思う理由)
それに、日本政策金融公庫でコインランドリー開業融資に成功している人は、全員が住宅ローンを抱えていない賃貸住まいなのか?といえばそんなことはないだろう。「融資枠」は重要ではあるが、数ある条件のうちのひとつに過ぎない。
事業計画が控えめだった
創業計画書に記載する事業計画については、前編で以下のように説明しました。
要は何が言いたいか、っていうと…
創業計画書上、コインランドリーがそれほど儲かる事業に見えないってことです(爆)
最終的には、シミュレーション結果を想定シナリオとした上で、楽観シナリオと悲観シナリオを作ってこの範囲に収まる、という事業の見通しとしました。
コインランドリーを経営する法人の視点では、僕への店舗部分の家賃支払いと、妻への役員報酬(パート代程度)を経費として払ってしまうと、ろくに儲からない事業になります。
なぜなら、外部にテナントを借りて家賃を払って、掃除のパートさんを雇ってコインランドリー経営をしているのと、損益計算書上は同じだからです。つまり、自宅兼コインランドリーのメリットを上手く表現できないのです。
そして特に、悲観シナリオは不要だったな、と反省しました。実際に1年間経営してみてこの悲観シナリオを下回ることはなかったし、日本公庫に対して自ら過度にネガティブな情報提供をしまい墓穴を掘ったと言えそうです。文字通り「正直モノが馬鹿を見る」をやってしまいました。
フランチャイズの後ろ盾がない独立系店舗
融資担当者との面談の際に、「フランチャイズには加入しないのか?」と聞かれて「自分達で運営します!」とむしろ誇らしげに答えていたが、これもマイナス要因の一つと考えられる。
毎月の様に全国に出店する大手フランチャイズには、日本政策金融公庫から融資を引き出すノウハウと、実績がある。融資する側にしても前例があるので融資しやすいのだろう。
融資担当者の「フランチャイズに加入しないの?」の質問の裏には、「フランチャイズだったら融資できるんだけど…」という意図があったのかもしれないなぁ、と今になっては思う。
ただ、自宅兼コインランドリーではフランチャイズに加入する意味は見いだせなかったし、開業後もずっと割高な運営費用を取られるのは、割りに合わない。僕は今から過去に戻れても、フランチャイズに加入することはないけど、融資を受けるにはフランチャイズが有利かも、程度は覚えておいてもいいかもしれない。(参考記事:それいけ、コインランドリー経営!機械はアクア(AQUA)に決めちゃいました)
税理士やコンサル会社の支援を受けていない
フランチャイズに加入しないと、公庫からの融資を得られないのか?と言われればそんなことはない。世の中には日本政策金融公庫の創業融資を支援してくれる税理士やコンサル会社がたくさんある。フランチャイズと同様に、融資審査を通すノウハウや実績があるし、一方の融資担当者もそういう支援者のレビューを受けている創業計画書の方が、ポイントを抑えていて融資を通しやすいのでしょう。ちなみに支援企業は融資担当者との面談にも同席してくれます。
支援会社の多くが、着手金0円で、無事に融資を獲得できた時に、その融資金額に対する数パーセントの成功報酬を支払うという価格体系にしています。ただ、これは「中小企業経営力強化資金」の場合であって、融資実行後に引き続き、認定支援企業(要は融資を手伝ってくれた税理士)との顧問契約が必要となります。要は融資を勝ち取った後は、税理士への顧問料という固定費が発生するのです。
「えぇー税理士との顧問契約はしたくない」と考える場合には僕と同じ「新創業融資制度」を選ぶことになります。この場合に支援企業への着手金の支払いが必要となり、成功報酬も割り増しになるようです(要はずっと儲かる顧問契約が取れないので、税理士はこの時点で利益を出そうとする)
僕の場合は、「自分ひとりでもできるもん!」と根拠のない自信を持ってしまったことと、この着手金や成功報酬の支払いを「もったいないもん!」と思ってしまったことが敗因です。
実は僕は個人事業主としての不動産投資や節税の支援をうけるために、税理士と顧問契約をしています。どうせ顧問報酬を支払っているなら、今回の法人の融資も同じ税理士に支援を依頼しておけばなぁ、と今更ながら後悔です。アホでした。
養育しなければいけない子供達がいる
電話で満額融資を断れてからしばらくは、融資担当者に「お子様もいらっしゃるんですよね?」と聞かれたことが頭に引っかかっていた。
じゃあ何かい?僕らに子供達がいなければ融資が下りたのかい!と。
日本政策金融公庫は、100%日本政府が出資する金融機関です。なので「日本政府からあなたには子供がいるので融資しません!」と言われたと受け止めてしまった。
政府は「子育て支援」とか「挑戦を応援する」とか表ではキレイごとを言いながら、「養育費の掛かる子供は負債扱い」し「苦労して子育てしている我々世代のハシゴを外すのかよ!」とダークサイドに落ちかけた。今回の記事を書くのに1年以上間があいたのも、客観的に冷静に自己分析して頭を冷やす時間が必要だったから、かもしれない。
実際には、まだ幼い子供がいるという事実は、僕たち夫婦の「リスク許容度」の判定には参考にされたかもしれない。ただ最終的には、これまで述べてきた複数の要因による総合的な判断だったのだろう、と今は受け止めている。
残念ながら満額回答ではなかったけど、色々と突っ込みどころ満載の事業計画にもかかわらず、無担保・保証人なし、低金利で融資してくれたことには感謝をしております。
もしタイムマシンに乗れるなら?
歴史にタラレバはないけど、もし開業当時に戻れるとしたらこうする。
地元の銀行・信用組合に相談する
経営している合同会社のメインバンクは、近所の地方銀行に開設している。日々の売上管理や経費の支払い程度の付き合いを想定していたが、銀行員と面会した際に事業融資の提案をしてくれた。
ここで注目すべきは、産業を活性化したい都道府県や地方自治体の利子補給制度の存在だ。正直、地方銀行の金利は低くはないが、地方自治体が一定の金利分を補助してくれるので、結果としては驚くほどの低金利で融資を受けることができるらしい。自分の住む自治体にこういう起業支援制度があるとはまったく知らなかった。
自治体や商工会議所での起業セミナーなどサポートも受けられるらしいので、調べてみた方がいいと思う。
地元の税理士に相談する
地方自治体の利子補給制度への理解もあるし、地方銀行との取引実績もある。さらに新規創業経験が豊富で、日本政策金融公庫との取引実績がある地元の税理士に相談した方がいいと思う。正直な話、税理士さんの能力はピンキリなので、ホームページなどで得意分野や実績を調べて、複数の税理士さんと実際に会って話を聞くべき。長い付き合いになるので妥協はせずに相性がいい税理士さんを選びたいですね。
日本政策金融公庫+地元の銀行から融資を受ける
税理士の力を借りて、日本政策金融公庫の「中小企業経営力強化資金」に申し込む。もし希望金額に届かなった場合には、地方銀行で地方自治体の「利子補給制度」を利用した融資で補う、というのがベストだと思う。
今後、不動産投資やコインランドリー2号店(予定はないけど)を考えた場合にも、メインバンクとは普段から懇意に付き合っていた方がよいだろう。
しくじり先生のまとめ
結果として、僕は日本政策金融公庫の「新創業融資制度」を甘くみており、必要な融資を引き出すことに失敗しました。しかも、失敗した場合のバックアップとして、平行して別の金融機関との交渉をしていませんでした。
工事完了と支払い期限までに時間がなかったため、別の金融機関との交渉を諦めることになり、不足する450万円分のコインランドリー機械は、結局は割高なリース契約で調達することなってしまいました。日本政策金融公庫が満額融資してくれた場合と比較して、100万円近いの手数料や余計な金利を支払うことになります。本当にとほほ、です。
1年が経ち、気持ちの整理がついたこともあり、敢えて我が身の恥を晒しました。笑うなら笑ってください。これから挑戦される方に、ほんの少しでも参考なれば嬉しいです。
コインランドリー開業、甘くなかったです!
コメント
コメント一覧 (4件)
いつも興味深く読ませていただいております。政策金融公庫も結構しょぼいのですね。
うちも奮闘記様とほぼ同じ時期にコインランドリーを開業した者です。うちは記事にもあります自治体の創業支援融資を受けました。結果的にはかなり有利な融資を得ることができましたが、交渉途中では信用保証協会が保証できないと言い出したり、紆余曲折がありました。こちらは自治体の保証料全額補助のお墨付きお得ているにも関わらず、ごちゃごちゃ言い出したので、最終手段として、金融庁に乗り込むことまで考えてましたが、途中から協会の担当者が出来る人に変わったため、こちらの言い分が通り、無事保証を得ることができました。
やはり、担当者の方の良し悪しが、影響するもんだなと感じた次第でした。
でも個人保証はつけられています。保証協会の保証をつけても、結局個人保証に戻ってくるのであれば、何のための保証協会か訳わかりません。貸主の銀行も、自治体の利子補給もあり、保証もついているのであれば、ほぼノーリスクですしね。
お店の御繁盛をお祈りいたします。
貴重な経験談を共有頂き、ありがとうございます。つまり私がタイムマシンで過去に戻れて利子補給の道に進めたとしても、保証協会というまた別のハードルがあるって事ですね(苦笑)
今回の事から学んだのは、融資する側は役人(サラリーマン)なので、責任やリスクを取りたくないということ。
申請する側は、追加コストを払ってでも「融資を断る理由がない」状態までお膳立てしないといけないんですよね。
日本政策金融公庫の融資担当者との面談のとき、隣のブースからは「一緒に開業に向けて頑張りましょう!」という別の融資担当者のポジティブな声が聞こえました。
どの担当者に当たるかという運の要素もあるんだろうな、と思っています。
俗に言う【薔薇色プラン】の根拠になる説得材料。
類似ロケーションの優良店データを提示すると良かったかもしれませんね・・・
コインランドリーは空前のブームとは言え、特に都内のショップの内情はまだまだ金融関係者にも周知はされてませんので。
もちろん新規オーナー様では持ち合わせがないデータですから、フォローが必要ですが。
リスクヘッジのリースも、業者さんによって料率もかなり変わってきますので、やはり並行して複数の審査が必要ですね。
知恵袋さん、そうなんですよね、某FCが出す様な薔薇色シミュレーションを提示すれば良かったのかしれません。
金融機関との交渉経験の乏しさを露呈してしまいました。
ビジネスローンは、相見積やリスクヘッジの為に、複数審査を回すべきでしたが、逆に住宅ローンでは複数審査をして失敗したので心のどこかでブレーキを踏んでしまったのかもしれません。
しかし、住宅ローンとビジネスローンは全くの別物。このしくじりは今後の人生に活かします!
参考:住宅ローン複数審査の罠にはまってみた